トーキョー狂人見聞録

トーキョーとかいう愛すべき糞溜めでの人間模様の経験

めちゃくちゃ気持ち悪いおっぱいの女

年末、Tinderで知り合った女の子が午前零時の山手線に乗ってウチへやってきた。

スト値で4-5、実のところタイプでもないし大して可愛いわけでもなかったが、会うのは二度目だった。彼女はそこそこの大学でまあまあの教育を受けていて、少なくとも僕の発する言葉たちの辞書定義は漏れなく理解している様子だったので、遠慮なく5時間にわたって言葉のサンドバッグにさせてもらったのが彼女との一度目のデートだった(なんて傲慢なんだろう)。

でも僕としてはいつもの日常のなかに、何のフィルターも介さずに、量・質ともにそのまま脳みそから言葉を抜き出すような発話ができる機会がそうなかったから、彼女との会話はたいへん新鮮だった。彼女の発話1に対して徹底的な言葉の絨毯爆撃100を浴びせて、彼女の脳みそがみるみる僕の言葉に染まっていく様子を眺めるのはじつに気持ちが良かった。自分の言葉に自分以外の置き場所を見つけられたような発見が嬉しかった。

そんな彼女がやってきた。改札で彼女を一目見たときにふと心臓が10cmくらい下に落ちてゆくような失望感を僕に与えてくれる今ひとつのルックスには、あのときから何ら変化はない。だから家に向かうタクシーの中で僕が彼女の顔に目をやることはなかったように思う。僕は自分のルックスの割に他者のルックスをよく気にかけるのだなと思う。

そしてお互いベッドの上に胡座をかいて、インドの青鬼を飲みながら話をした。彼女は最近出会った卑屈な男の話をした。僕はそれにモラルハラスメントだとかの概念をあてて、僕が最近モラルハラスメントについて考えていたことを好き勝手に喋った。1に100で返した。

モラルから派生して倫理や哲学の話になった。現代において自分たちの行動を拘束しうる道徳規範があり得るのは、少なくとも個々人がある共同体を共有し、かつその共同体が自己保存本能を持つ場合だ、みたいな話をした。翻って、そもそも自分たちは特定の共同体を共有しないし関係を継続させなければ困るような何らの利害関係もないから、この関係においては善悪を決定する倫理平準は存在しない、つまりあらゆる行為が全てあり得るのだ、ということを話した。あらゆる下心を可能にする魔法の論理だった。中途半端に学識のある彼女は食いついてきた。

そしてなぜだかニクラス・ルーマンの社会システム論の話になった。僕は、ルーマンの話を誰かにできるのは初めてだからすごく嬉しいよ、といった。あのとき本当に喜びの感情を抱いていたのか、あるいはただのリップサービスだったのかは覚えていない。

そのうちに彼女が眠たいと言い出したから、僕はキスをした。キスは長かった。なし崩し的にお互い裸になった。

彼女はTバックを穿いていたし、アンダーヘアは僕のヒゲくらいに短く切り揃えられてよく整っていた。なんだ、慎ましい建前を持ってきた割にこいつその気で来たのかよ、と思うとなんだか凄く落胆した。

胸を触った。僕がいままで触ってきた胸の中で最も歪な胸だった。空気が抜けたボールのような触り心地だった。形もグロテスクだった。乳首の色も。なんなんだこれは。改めて失望。

胸を触る気がそれ以上起きなかったので指を入れた。特段の印象のない穴だった。喘ぎ声がうるさいな、と思った。ただでさえ居候なのに、最近じゃ家賃もロクに支払っていないのに、近所に聞こえてどうするんだという焦燥だけがあった。

彼女は先ほど僕が話した道徳の話を引用して、二人の間では何をすることだってできるんだよね、と確認してきた。そうだよと僕は答えた。

入れてくれと言われたとき、僕は勃起していなかった。セックスで勃起しないなんて生まれて初めての経験だった。色々と試したが無駄だった。薬を飲んだから、とか、酒を飲みすぎたから、とか理由をつけて、だから君のせいじゃないから気にしないでくれ、と言葉をかけた。惨めだったのを覚えている。

ひとしきりキスをして、仕方なくそのまま眠りにつくことにした。そうして2時間くらい経ったころに起きて、彼女の体を弄っていたらすこしはマトモに勃ったので、そのまま生で入れた。途中で限界を感じてコンドームを装着したが、大変危ないことをした。こんなおっぱいと。恐ろしく馬鹿だったと思う。

絶頂に達してからは、目の前の存在が忌々しく邪魔に思えて仕方がなかった。僕はシャワールームに逃げ込み、出かける身支度をゆっくり整えて彼女と顔を合わせずに済むよう時間を過ごした。このときはいつも分けていた髪を下ろしてセットした。彼女はそっちの髪型のほうがいいね、と言ってくれた。僕は目を合わせずありがとうと返して今朝に発つ旅行の荷造りをした。

駅まで一緒に歩いて別れたが、後味の悪さは一週間以上経ったいまでも抜けない。この腹に感じる気持ちの悪さは大晦日に飲みすぎた胃炎のせいかとも思うが、決してそれだけではないだろう。いつになったら本当に欲しいものが手に入るのだろう。