トーキョー狂人見聞録

トーキョーとかいう愛すべき糞溜めでの人間模様の経験

珍獣と紫煙と4500円と

Tinder案件2と会ってきた。写メ詐欺の恐怖を裏切ってかわいい子がきた。スト値7。

予約しておいた店にスムーズにイン。緊張感があったが文脈のある店選択だったので入店後のアイスブレイクは順調だった。元々生肉がお互い好きだということで意気投合したのだ。だからお店は高田馬場「米とサーカス」で、鹿やらヤギやらトドやらカンガルーやらを真っ赤なまま頂くのがお目当だった。入店して予約の名前を告げてカウンターに二人で並ぶ。カウンター席だと距離感が近いので和みがするりと進んでゆく。店の内装も料理も、ある程度しっかりとした作り込みの上に一定のハズしを欠いていなかった。デートが気軽かつ綺麗に成立する好条件。メインがゲテモノチックなので客は選ぶだろうが、なかなかこういう店に通う人間もいないだろうから特別感は容易に演出できる。

初対面のぎこちなさは多少あった。でも色々と波長が合う感覚が心地良かった。僕は気を遣ってiQOSを持ってきたのだが、蓋をあけてみると彼女も煙草を吸うことが分かった。僕も吸う。タバコに対する気遣いなんて最早いらなかった。しかるに大変に気が軽く酒が進む。僕が、日本酒でも頼もうか、と提案すると、彼女は、酔鯨、冷がいい、と言った。僕も3日前に食べログを見ながらここでは酔鯨を飲もうと思っていた。これってすごく素敵なこと。酔鯨おいしいもんね。肉刺に合うよね。

会話は無難そのものだった。なにしてる人なの、これおいしいねおいしくないね、最近買ったペットの話、普段の遊び、大学時代の日々、ぶらぶら。

ここは正直いって重大な反省要素だ。結局のところ、言葉の交換の中に自分としての固有の価値を明確化して埋め込んで提示できなかった。別に相手が僕という自分である必要のない、交換可能な主体に堕してのコミュニケーションだった。だから今回は5時間にわたって中途半端などうでもいい表層的な話を延々と繰り広げてお互いの人格の上っ面をサーフィングしていたに過ぎない。そんな世間話はタバコ屋のおばちゃんと3日に30秒すれば十分だろう。もっと心の奥底を突つく会話に持ち込むべきだった。そしてそれは僕の責任だ。

思うに個人が特定他者にとって交換不可能な具体的特殊の地位を築く条件はコミュニケーションにおける時間的量と質的強度によって二面的に規定される。どんなつまらない人間でも10年連れ添えば多少の情が出るわけだが、こうした差し当たって高度に流動的な関係下でそのような悠長さは許されない。従って質的強度が重要なファクターとなる。全てのコミュニケーション行為における質的高さ、かつその組み合わせにおいて凡そ他者に再現不可能であること。空間の演出も含めて。しかも同時にその表現の方法が相手の歯車の歯形に応じて水のように変幻自在に変形可能でかつ最も適切な形で提示できること。ということはつまり前提として相手の歯形を的確に読めること。この水準を基本としなければいけない。

まさに僕とコミュニケーションすることの意味と価値とは?他と違う、誰にもできなくて僕にしかできない会話とは何なのか?相手の心の深淵の深淵にリーチして無二の何かを引き出す言葉は何だ?このコミュニケーションを更に特別な何かに昇華させたいと思うなら、適当な世間話で小さな笑顔を稼ぎながら時間を埋めていく以上に、これらの点について僕はもっと頭を回さなくちゃいけない。そしてまず自分自身が、枝葉を捨象され、一般性のラベルのなかに還元されることを暗に阻止しなくてはいけない。具体的特殊の地位を仮に短時間の間であっても強烈な質的強度の表現によって確立しなければいけない。そしてそれを通じて彼女のそれも大いに引き出していかなくてはいけない。それこそ僕が自らを投企していくと決心したコミュニケーションのベクトルに他ならないのであって、だからこそ僕は今回の怠慢を猛烈に反省しなくてはいけない。

されど現実には会話は和んだ。そうなんだ、牡蠣が好きなんだね。へえ、東北の牡蠣なら夏でもそんな大きいのが生で食べられるんだ。本当に牡蠣が好きなんだね。そういえば中目黒に行ってみたい鍋の店があるんだ。きみと野毛に行っても楽しいだろうなあ。

酔鯨の冷2合と五橋のぬる2合が空いたころ、酩酊感は程よかった。「良かったら新宿にいい店があるから行かない?」の問いかけに反応は明快なイエスだった。

すみません、お会計をお願いします、で僕の元に伝票が運ばれてくる。1万円にギリギリ届かない数字。僕は諭吉先生を取り出し伝票のバインダーに挟み込んで店員に差し出す。彼女も財布を取り出し、支払いの意思表示を見せてくれる。僕は自分のパフォーマンスが有意に発揮できたと思わなかったのでとりあえずは断った。しかし彼女の発した「ごちそうさま、次のお店は払わせてね」の一言は、僕がこのしばらく耳にしてこなかった言葉だった。

店員と談笑しながら店を出るとにわかに小雨が降っていて肌寒かった。バッグから折りたたみ傘を取り出し、彼女を入れて寄り添って歩く。駅までの復路なのでこの道を二人で歩くのは2回目だが、往路よりも着実に空気が和らいでいた。駅の売店で煙草を買っていこうか、そうだね。メビウスのオプション5ミリとマルボロブラックメンソール8ミリ。彼女が払ってくれた。こんな簡単なことなのに、僕は仮に460円の煙草でも彼女がこうやって財布を開いてくれたことが嬉しくて声が出なかった。近頃こうした対称性に免疫がなかった。そのときはありがとうの一言すら言えなかった。ジェンダーの檻の中でモノと化していた自分が少し人間の感覚を思い出した気分だった。そして目の前の彼女も、単なる無機質なコミュニケーションゲームのオポネントとして半ば物象化された存在ではなく、一人の人間として映った気がした。

高田馬場のタクシー乗り場から新宿へ向かう22時。タクシーの中から新宿イーグルに電話。これからお邪魔したいのですが2名入れますか、入れますよ。それではお願いいたします、失礼いたします。よかったよ、空いてるって。なに飲もうか、楽しみだね。

あれやこれやの話をして、ついでに「地図から消えゆく飲屋街ツアー」の話も紹介しているうちに、僕らを乗せた黒いクラウンコンフォート新宿アルタ前に停車した。彼女は40円払ってくれた。額じゃない。僕はその事実が嬉しかった。

タクシーを降りると雨脚が強まっていた。いつもね、仕事用の鞄に折りたたみ傘が入っているんだけれど、休みの日にまでそんな鞄使いたくないじゃない。だから今日は違う鞄を持ってきたの。そうしたら傘も忘れちゃった。いいんだよ傘なんて持ってこなくて、もし持ってきていたら二人で一つの傘に入ることもなかったでしょ。

イーグルは日曜日にも関わらず相変わらずの忙しさだった。綺麗なお店だね、うん俺もそう思うよ。コートと鞄を預けて、カウンターの二席分ぽつりと空いていた空間に身を滑り込ませた。僕はいつものボウモアストレート。彼女は赤をグラスで。へえ、バーでワイン飲むんだなあ。

彼女がメビウスを口に咥えるたびに僕はジッポで火をつけてやる。喫煙者とデートなんて考えてみたら初めてか。いいもんだな。そういえばさっきは煙草ありがとうね。僕はこの瞬間になってお礼が言えた。

ひとしきり談笑していたらボーイが伝票を持ってきた。もうそんな時間か、明日仕事なのにこんな時間まで付き合わせてごめんね。彼女は財布から4000円を取り出し、僕が自分の財布から取り出した4000円をはねつけた。参ったな、これは借りだよ。次の機会は俺持ちだからね。それなら次は好きなだけ食べることにするよ。上等だ、かかってこい。

外に出ると雨脚は更に強まっていた。傘に雨粒が弾ける音と週末との別れを惜しむ日曜24時の新宿の喧騒を聞きながらアルタ横で信号待ちをする。なにを話していたのかは覚えていない。ただ彼女の横顔が色っぽく目に映った。

JR新宿駅に滑り込んで中央線各駅停車を待つ。一駅分だけれど同じ電車に乗る。しばし笑いあっていたらすぐにオレンジ色の電車が入構してきた。席は空いている。並びあって座る。そういえば今日はずっとカウンターで並んでいたから彼女の顔を正面からほとんど見ていない。これはカウンターでデートの難点といえば難点かもしれない。横からだと表情や目の観察が難しいことがある。聴覚情報への依存度が大変高くなる。すると得られる情報も少ない。とはいえ、それはそれで緊張感があって楽しいのも事実なのだが。テーブルだと距離感があるし、L字カウンターがベストなのだろうか。でもL字の席に着く機会ってそうないしな。

中央線各駅停車は新宿を発って加速したかと思うとすぐに代々木駅に向けて減速する。僕は立ち上がって彼女と向かい合ってまみえた。正面から見てもやっぱりかわいいじゃないか。何度もいうけれど、また誘うからね。じゃあね。じゃあね。

久々に楽しい日曜日の夜を過ごした。彼女とは長く続くといいなと素直に思う。

駅から家までの帰り道、彼女にあげてしまったから傘はもうない。結局翌朝までには雪に変わったこの夜の雨は恐ろしく冷たかったが、身体が芯まで冷えることはなかった。






Tinder案件No.2

Tinderで出会った女の子と今夜飲みに行く。実際にアポに発展したのはこれが二人目。アポ予定が月末にもう一人、宙ぶらりんが一人、会おうと定期的にアプローチくるのが最初に会った一人。合計四人を回す体制。その気になればあと数人増やすこともできそう。金と時間がもっとあればな。傲慢な考えだがもう少し選択的になるべきかもしれない。

一方で、結局この遊びに自分が何を求めてるのかこの数日間ぐるぐる考えてきた。自分の目的は何なのか。恋愛工学生ではないが、非モテコミットメントの回避がまず第一にあるのは間違いない。ではその次に求めるものはなんだ?LTR?それとも便利なセフレの開発?はっきりとした答えが自分の中でもでていない。

だから、今夜会うとは言っても現時点で戦略もスタンス(到達目標)も明確に固まりきっていない。デートコースは考えているけど全部自分が支払ってたら今日の所持金がすっからかんになりそうだ。支払い割合についても未定だ。

しかし考えなければいけない。この投資の先に何を得る?金も時間もエネルギーも費やして何も得られないなら黙って服でも買っといたほうがいいんじゃないか?金を無意味にドブ川に垂れ流すほど自分にいま余裕があるのか?

全てに合理であれとは言わないが、せめて惨めな思いをしないためにも、今回の目標をしっかり設定して行動したい。状況依存要素もあるが、それぞれに対応した目標を複数個。

そして今回会うのは24歳MARCH卒社会人、スト値7.5。

Tinder必殺オープナーが通用しなかった相手。すごく丁寧に敬語と挨拶を入れてくる。上下関係に厳しい社会に身を置いてきたか、あるいは人付き合いになんらかの難があるのか。
とりあえずマッチしてからは食事の趣味が合っていたのでそこを徹底的に押した。会話が多少グダったけどなんとかアポにまで落とし込んだ。会話グダは俺の技量の問題もあっただろう。LINE移行後の会話をどう進めるかってホント課題だ。実際問題俺自身が初対面の相手にそこまで興味ないのが原因だろうか。今のところ俺自身はあまり楽しくない。スト値がそこそこあるから続けてるだけ。むこうもOKしてくれているけど俺に興味を抱いたというよりかはオマケ戦略のオマケに惹かれてるに過ぎないんじゃないかな。だとしたら飯乞食なのかな。やだなあ。

まあでも食事の趣味は合っているわけだし、これで会話が噛み合えばLTR可能だろう。もしそれがダメなら2件目の前に潔く放流か。どのみち今日は日曜日だからワンチャンは難しそうだ。

LTRを視野に入れる場合、本当にしっかり楽しませることができたと思ったら飲み代は頂こう。7:3くらいで。イマイチ楽しませてあげられなかったと思ったら奢ってあげよう。

どうしようもないと思ったら適当に切り上げて帰ってこよう。どう転ぶかな。

と考えると、長く続く可愛い女の子の飲み友達が素直に欲しいだけなんだな、と気づく。うーん。

まあ実質スト値推定7以上の初対面の相手と戦うのは初回だし、今回は、
・今後の勉強になるのだと思って観察眼を利かせ鍛えること。心理分析と誘導が実際にどこまでできるか。
・ラクに臨んで雰囲気に慣れる。自分のきままな会話でどこまで進めるかチェック。
くらいの意識で臨もう。PDCAだけ回して次回以降の案件を堅実に仕留めていく鋭さを磨く。



めちゃくちゃ気持ち悪いおっぱいの女

年末、Tinderで知り合った女の子が午前零時の山手線に乗ってウチへやってきた。

スト値で4-5、実のところタイプでもないし大して可愛いわけでもなかったが、会うのは二度目だった。彼女はそこそこの大学でまあまあの教育を受けていて、少なくとも僕の発する言葉たちの辞書定義は漏れなく理解している様子だったので、遠慮なく5時間にわたって言葉のサンドバッグにさせてもらったのが彼女との一度目のデートだった(なんて傲慢なんだろう)。

でも僕としてはいつもの日常のなかに、何のフィルターも介さずに、量・質ともにそのまま脳みそから言葉を抜き出すような発話ができる機会がそうなかったから、彼女との会話はたいへん新鮮だった。彼女の発話1に対して徹底的な言葉の絨毯爆撃100を浴びせて、彼女の脳みそがみるみる僕の言葉に染まっていく様子を眺めるのはじつに気持ちが良かった。自分の言葉に自分以外の置き場所を見つけられたような発見が嬉しかった。

そんな彼女がやってきた。改札で彼女を一目見たときにふと心臓が10cmくらい下に落ちてゆくような失望感を僕に与えてくれる今ひとつのルックスには、あのときから何ら変化はない。だから家に向かうタクシーの中で僕が彼女の顔に目をやることはなかったように思う。僕は自分のルックスの割に他者のルックスをよく気にかけるのだなと思う。

そしてお互いベッドの上に胡座をかいて、インドの青鬼を飲みながら話をした。彼女は最近出会った卑屈な男の話をした。僕はそれにモラルハラスメントだとかの概念をあてて、僕が最近モラルハラスメントについて考えていたことを好き勝手に喋った。1に100で返した。

モラルから派生して倫理や哲学の話になった。現代において自分たちの行動を拘束しうる道徳規範があり得るのは、少なくとも個々人がある共同体を共有し、かつその共同体が自己保存本能を持つ場合だ、みたいな話をした。翻って、そもそも自分たちは特定の共同体を共有しないし関係を継続させなければ困るような何らの利害関係もないから、この関係においては善悪を決定する倫理平準は存在しない、つまりあらゆる行為が全てあり得るのだ、ということを話した。あらゆる下心を可能にする魔法の論理だった。中途半端に学識のある彼女は食いついてきた。

そしてなぜだかニクラス・ルーマンの社会システム論の話になった。僕は、ルーマンの話を誰かにできるのは初めてだからすごく嬉しいよ、といった。あのとき本当に喜びの感情を抱いていたのか、あるいはただのリップサービスだったのかは覚えていない。

そのうちに彼女が眠たいと言い出したから、僕はキスをした。キスは長かった。なし崩し的にお互い裸になった。

彼女はTバックを穿いていたし、アンダーヘアは僕のヒゲくらいに短く切り揃えられてよく整っていた。なんだ、慎ましい建前を持ってきた割にこいつその気で来たのかよ、と思うとなんだか凄く落胆した。

胸を触った。僕がいままで触ってきた胸の中で最も歪な胸だった。空気が抜けたボールのような触り心地だった。形もグロテスクだった。乳首の色も。なんなんだこれは。改めて失望。

胸を触る気がそれ以上起きなかったので指を入れた。特段の印象のない穴だった。喘ぎ声がうるさいな、と思った。ただでさえ居候なのに、最近じゃ家賃もロクに支払っていないのに、近所に聞こえてどうするんだという焦燥だけがあった。

彼女は先ほど僕が話した道徳の話を引用して、二人の間では何をすることだってできるんだよね、と確認してきた。そうだよと僕は答えた。

入れてくれと言われたとき、僕は勃起していなかった。セックスで勃起しないなんて生まれて初めての経験だった。色々と試したが無駄だった。薬を飲んだから、とか、酒を飲みすぎたから、とか理由をつけて、だから君のせいじゃないから気にしないでくれ、と言葉をかけた。惨めだったのを覚えている。

ひとしきりキスをして、仕方なくそのまま眠りにつくことにした。そうして2時間くらい経ったころに起きて、彼女の体を弄っていたらすこしはマトモに勃ったので、そのまま生で入れた。途中で限界を感じてコンドームを装着したが、大変危ないことをした。こんなおっぱいと。恐ろしく馬鹿だったと思う。

絶頂に達してからは、目の前の存在が忌々しく邪魔に思えて仕方がなかった。僕はシャワールームに逃げ込み、出かける身支度をゆっくり整えて彼女と顔を合わせずに済むよう時間を過ごした。このときはいつも分けていた髪を下ろしてセットした。彼女はそっちの髪型のほうがいいね、と言ってくれた。僕は目を合わせずありがとうと返して今朝に発つ旅行の荷造りをした。

駅まで一緒に歩いて別れたが、後味の悪さは一週間以上経ったいまでも抜けない。この腹に感じる気持ちの悪さは大晦日に飲みすぎた胃炎のせいかとも思うが、決してそれだけではないだろう。いつになったら本当に欲しいものが手に入るのだろう。