トーキョー狂人見聞録

トーキョーとかいう愛すべき糞溜めでの人間模様の経験

自分詐欺について

僕が女の子を口説くとき、僕はトーキョーという街ではあまり実体価値のないものを四苦八苦で売り抜いている。

見てくれがいいというわけでもなく、未だに働いていないという身分、低収入、今後数年はその状態が続くであろう確定的未来、そしてその果ての就職もどうなるやら。仮にいま何らかのポテンシャルがあるにせよ、そんな物件を彼女たちが引き受けることはある種の先物取引であって、もし相手がマジメに未来を考えるなら僕は目に見えるリスクで、合理主義マインドでいけば忌避が正解だ。でもそんな合理判断もできない思慮の浅い人に僕はそもそもあまり魅力を感じないから、狙った相手にまず第一歩の「買い」の選択をさせることは僕にとってそう容易じゃないのである。

以上の要素にアルファ感なんて1ミリもないが、それでも相手に僕という人間へ一歩踏み出す決心を誰かに促すならそこに戦略は大きく二つある。結論を言えばそれらの骨子は「都合のいいものだけとことん見せて臭いものにとことん蓋をする」ということ、ある種の「自分詐欺」。まず一つ目に僕はどこか別の次元で価値を創出してリフレーミングしなきゃ/させなきゃいけない。これは相手を魅了するのに大変重要なことだ。僕は会話力と行動力に基づく「ロマンティシズム」にこれを置いていて、何人かの恋愛工学の先達もロマンティシズムがAフェーズにおいてよく機能することに気づいているようだ。だがこちらは今回の主題ではない。

もう一つは、身だしなみをカンペキに整えて、自信満々に振る舞い、そして自己開示を制限してゆくこと。見た目と話しぶりでは僕がこの年齢でフラフラしているという実体価値が読めないどころか、価値を実体以上に釣り上げる。だがウソをつくことは僕にとっての将来的なリスクになるから避ける。ウソはつかないが、だけれど僕が何者であるかを煙に巻いて相手の好奇心をくすぐり、僕についてあれこれ夢想させる。これはある意味で詐欺的手法だが、自己開示の制限によって僕が聞き手側に回ったり話を逸らすジョークで場を笑顔で和ませる機会が増えるのでAttractionのみならずConfort-Buildingとしても大変有力な戦略になっている。頭がフル回転するので精神が大変疲れるが、セックスまで到達するのにこれで難はないことがわかった。

しかしこの後者だが、その後のポストセックスピリオドでは大変問題になる。いつかの瞬間に徹底的な僕の自己開示を求められる。女の子たちは自己開示したがりだからガンガン話してきて、僕もガンガン聞くわけだが、そしてある時ふと女の子は情報の非対称性に気づく。自己開示の制限によって最初の段階で「謎めいて不思議で面白い男」だったものは、ポストセックスピリオド突入でコミュニケーションの深度が増してゆくにつれて、「身分を隠す怪しく胡散臭い男」に様変わりする。猜疑心。「あなたが自己開示しないなら私もしない」なんて言ってくる。彼女たちの感情のバケツが僕への猜疑心でいっぱいになれば、溢れかえって僕らの関係は終わる。

本当に適当な付き合いでやっていくのならそのまま自己開示を制限し続けるのでいいのだろう。むしろそう腹をくくるなら徹底的にウソも織り交ぜてとことん詐欺的に騙してやることもできるだろう。でも、僕はそんなことを1ミリも望んでいない。

今でこそ言語化できているが、これ関しては半分は無意識的に行ってきた。これがその他の人間関係で障害となることもあり、どうしたものかと悩んでいたとき、僕をカウンセリングしてくれていた臨床心理士さんとの対話を通じてやっと問題の根底が見えてきた。

僕の人間関係一般において、僕はセルフイメージを完璧主義的に高めるようだ。本来の自分が100%のところを例えば150%に持っていく。短期的に実現可能な表層(ファッションや簡単なマインドセット)は自分の描くこの150%の側に持っていく。一方で自分の何をいつ開示するかといえば、自分のセルフイメージに高値がつく瞬間にのみ、である。ウソにならない範囲で、「ここでこの事実を述べることは自分の150%ラインを満たすな」という無意識の判断が僕の自己開示の前提条件になっている。だから70%の値では自己開示ができない。時に100%でも。無意識によるブランド戦略。しかし実体以上の値でパフォーマンスすることしか僕の無意識は許さないから、日々背伸びし続ける緊張とストレスを感じるし、「たとえ70%でも何かパフォームしなければ絶対にいけない状況」で僕はうまく物事をこなせなくなる。そしてポストセックスピリオドで「セルフイメージと到底乖離した負の自分を売れ」と要求されても僕には口を閉ざす以外に選択肢がない。事実、何も話せなくなる。ましてシリアスなトーンに持ち込まれて冗談も禁じられれば、本当に一言も話せなくなる。あるいは時間稼ぎしかできない。

しかしセルフイメージを高く設定していること自体にメリットも大きい。実際そのおかげで偏差値が標準より上方に振っている要素もなにかとある。というかセルフイメージ自体は最近特に意識してわざわざ高く設定している。よく言えば向上心の一側面といった戦術的部分もある。それに自尊心がゼロなよりかは精神的に健康な時間が多い。

というわけでジレンマだ。

臨床心理士さんはそんな僕に、まずそうした性向について開示してゆくと相手も配慮し促してくれるのではないか、新たなコミュニケーションの道が開けるのではないか、と示唆してくれた。

僕は物凄く納得した。僕はコミュニケーションにおける判断においてあまりに独善的であったと猛省した。最近のコミュニケーションにおいて僕が何を話し相手に何を話させるかは全て僕が決定し流れを作っていた。だがそれは僕の美学にも反することだった。コミュニケーションは二者行為なのに僕は一人相撲をしていた。人間を人間として扱うコミュニケーションをすると標榜しておきながら構造的には別の方法で相手を物象化していたかもしれない。

だからポストセックスピリオドで(あるいは日常のその他パーソナルな間柄で)、僕はまず以上の点を自己開示することに決めた。そして僕の自己開示を四苦八苦促して欲しいと甘えてみることにした。もっと僕を掘り下げて欲しいと。そしてそれは既に試行されて、いろいろと得たものがあったのでいつか綴りたいと思う。

そして別の結論。これ以外にもカウンセリングを通じた発見は山ほどあるけれど、他者とのコミュニケーションにおいて、四半世紀生きていながらこうした次元まで僕という人間が一気に掘り下げられたのは僕を担当して下さった臨床心理士さんとのコミュニケーションが初めてであった。数十分のカウンセリング数回なのに本当に凄いなと思う。なんだあのすさまじい技術。心理カウンセリングってすごい。

とても扱いの難しい、そして一歩間違えれば非常に危険な技術だと思うけれど、これは人間が人間と向き合うときに大変重要なことなんじゃないかな。コミュニケーションの質を高めるために臨床心理学の本でも読み漁ってみようとも思う。何冊か読んで一定の考えが構築できたらここにまとめてみようかな。

スコッチと織り成した昨日のロマンティシズムについて

新宿駅東口交番前に立っている一番可愛い子がわたしだよ、と彼女は言った。

晴れの日だった。朝の洗濯物はすぐ乾き、夜はよく冷え込んだ。そんな火曜日の20:00ぴったりに待ち合わせして、僕が直観だけを頼りに彼女を見つける手筈だった。わたしを見つけてみせてよ、と彼女は言った。普通の待ち合わせはつまらないから、最高のロマンスを演出しよう。普通というものに抵抗しよう。恋愛は社会に許容された唯一の狂気なのだから。これが僕らの謀略だった。

僕は19:55に東口喫煙所でクール8ミリを一服しつつ、いつものバーに電話する。もしもし、これから2名、15分後に、はい、カウンターでお願いします、はい、何某と申します、よろしくお願いします、失礼します。

僕は彼女の服装もいまの髪型も知らない。顔は写真で見たことがあるが不安だった。19:57、彼女は間も無く東口交番前に着く旨の連絡を寄こし、僕は改めて彼女の写真をiPhoneで確認してそこへ向かった。

19:59、僕の不安を裏切る不思議な現象が起こった。

僕は交番前に到着し、着いたよ、と彼女にテキストし、iPhoneの画面から目を上げ、さて、と振り返るや否や、即座に一人の女の子に釘付けになった。人混みで溢れかえる20時の新宿駅東口交番前のそぞろ行き交う人々のうねりの真ん中で、彼女は他の何よりも真っ先に惹きつけるように僕の視界に飛び込んできて、5メートル先から僕の目を真っ直ぐに見据えて直立していた。彼女以外の他の何にも意識を奪われなかった。確信があった。仕立てのいいグレーのロングコートを身に纏った彼女の口は緊張で横に結ばれていたが、その大きな目も確信に満ちて僕を捉えていた。何秒間だったろうか、見つめあった。思考が停止した。不思議な時間だった。

僕らの最初の挨拶は決めてあった。それは、やあ、でも、こんばんは、でも、はじめまして、でもない。彼女はその数日前、僕にこういった。あなたのことを考えながらスピッツの「正夢」を聴いていて思いついたんだけど、あなたとの出会いが夢でない保証がほしいから、わたしを見つけたらほっぺたをつねってよ。

だから僕はふと我を取り戻すと、彼女に近づいて、何も言わずにほっぺたをつねった。彼女も無言で僕のほっぺたをつねって応じた。そして、夢じゃなかったね、とどちらかが言って、そうだね、とどちらかが返した。僕らの口に笑みがこぼれた。

僕らの出会いはまだ終わらない。可笑しな話だが、これは僕らにとってあくまで二人がAIなどではなく確かに物理的実体を伴って存在することの確認作業に過ぎなかった。

僕らはかつてこんな会話をしていた。完璧なロマンチックな出会いなんてそう路傍の石のように落ちているものじゃないけれど、ロマン主義者としてはそうしたものへの憧憬は捨てがたい。仮にウソでもいいから自分たちの最高の出会い方を演じてストーリーを塗り替えようよ、かわいいが作れるならロマンスも作れるよ。きみはどんな出会いにロマンスを感じるかな。わたしはね、と彼女は僕に語ってみせた。

僕はその彼女の理想を現実化することにした。だから東口交番前からアルタ裏へ移動しながら僕は彼女にこう言った。いいかい、僕らはいまの段階ではまだ出会っていなくて、まったくの他人なんだけど、たまたま同じ方向に進んでいるだけだよ。

アルタ裏の資材搬入口の赤いオーニングの下で立ち止まり、僕は彼女にここで手持ち無沙汰風に立っているよう言った。彼女は顔を顰め困惑を露わにした。僕は彼女を置いて立ち去った。1分後に戻るから、と言い残して。

僕は来た道をひとりで戻って、息を整え、彼女のもとへ引き返す。彼女は戸惑うようにそこに立っていた。

僕は彼女に話しかけた。

いやあ、降ってきましたね。

雨なんて降っていなかった。清々しいくらいの晴れの日だった。彼女は笑った。僕は続けた。

僕、傘持ってないんですよねえ、あなたも傘ないんですか?大事な書類が入ってるからこのカバン濡らせないのになあ。ねえ、よかったらそこのバーで一杯いっしょに飲みません?そこのお店はなかなかいい酒を出すんですよ。一杯やってるうちに止んでくれるかもしれませんし。

これが彼女の思い描いていたロマンスだった。勿論偶然性が前提だったろうが、偶然性なんてカケラもない、いまここのその狂気に、ふたりで顔を見合わせて笑った。彼女は口角を上げたままこくりと頷いて、僕は彼女をアルタ裏横の新宿イーグルへ引き連れた。

これが僕らの出会いだった。

新宿イーグルは昭和の古き良きオーセンティックを貫く勝手の良いバーだ。ワインレッドのカーペットとウッディな壁の階段を金色の手摺に沿って地下に降りると、肉厚ながら空気のように透明なガラス扉が目見え、近づくと壮大な何かの幕開けを予感させる重厚さでゆっくりと奥へと開いて僕らを誘う。そこへ一歩踏み入れれば、絢爛なシャンデリアは眩く輝き、美しい石壁はその光を深呼吸し、肉厚のウッドカウンターは微かに照った。徹底的に作り込まれたこの異世界が、いま非日常へやってきたことを僕らに否応なく実感させる。

ポマードで頭を艶やかに固めて昭和の時代からそのままタイムスリップしてきたバーテンダーたちに上着を預け、僕らは用意されてあった席に着いた。彼女を見やると緊張が認められた。肩を力ませて、辺りをきょろきょろと一瞥していた。僕が彼女を観察していることに気づくと、彼女は僕の目を改めてまっすぐ見据えてきた。元々くりりとしたその目は大きく開かれて輝いていた。明らかな好意の徴。見つめあいながら、僕はお気に入りのノーカラーシャツの第一ボタンを開けて、袖を捲くった。僕はクール8ミリに火を点けて吹かした。彼女もセブンスターメンソール5ミリを吹かした。彼女のライターには毛筆で力強く山崎の字がプリントされており、それが無言で酒飲みを語っていた。

彼女は極度の人見知りで、緊張すると口が大変重くなる。もともと口数も多くなく、彼女との会話における沈黙は、東から昇り西に沈む毎日の太陽の公理ほど当たり前のものだった。そして表情表現も苦手だと彼女は語る。人間観察に不得手でかつ彼女のことをあまりよく知らない人間であれば、彼女の様子を見ていま自分との時間を楽しんでいないかあるいは不機嫌であるに違いないと判断するだろう。そして彼は余裕を失い、彼女に更なる緊張とプレッシャーを与える。彼女はそうした自分の性向をコンプレックスに感じていた。そして彼女を外見的表層でのみ判断し、彼女の内面を見やれない多くの男たちを嫌悪していた。だから彼女は予め僕にひとつだけタブーを警告していた。わたしはよく無表情だとかこわい顔をしていると人に言われるけれど、仮にそうであっても絶対に言及しないで。彼女はそのとき、僕に会う楽しみと僕がそうした表層的判断を下す怖れとが混合した複雑な感情を、マリッジブルーのよう、と表現した。

僕は彼女のそうした性向を正面から受け止めた。沈黙を恐れず、彼女の美しい目を直視し、自らの顔に余裕を滲ませ、君はそのままでいいんだよ、と表情で伝えた。彼女から会話を切り出すことはない。僕からまず何かについての自分の考えや視点を表明し、彼女に意見を問うことで会話が続いた。お互いの理解が深まった。彼女は徐々に僕に向けて前傾になった。目はさらに輝いた。口に笑みがこぼれ真っ白な彼女の歯が露わになった。僕のボウモアと彼女のマッカランを前に僕らの肩と肩が触れ合い、カウンターテーブルの下では足と足が触れ合った。彼女は不意にブルーチーズをクラッカーに乗せて僕の口元に差し出してきた。思いがけない歓喜にスモーキーなアイラと香り高いブルーチーズのマリアージュが一層引き立った。

一頻り時間を楽しんだのちに僕が、そろそろ次のお店にいこうよ、ここはサントリーのウイスキーしか飲めないけれどウイスキーはサントリーだけじゃないからね、他のものを試しにいこうよ、と提案すると、彼女は無言でトイレに立った。僕は会計を済ませながら口の中で紫煙を転がして待った。僕と彼女の間に絶妙な呼吸感の符合があった。

いささか千鳥足になりながらもあの階段を戻り地上へ出ると、外の空気が冬を直線的に体現した澄みようで僕らを迎えた。僕は彼女に左手を差し出した。触ってみてよ、すごく冷たいから。彼女は恐る恐る僕の手を取った。コートのポケットにそのまま突っ込んで温めてよ、と僕は畳み掛けた。彼女は手を恋人繋ぎに組み替え、腕をかすかに絡ませて、僕の言った通りにした。人通りの多い22時の新宿を、15度後方で恥ずかしそうな顔をする彼女を引き連れて、僕らは2軒目のバー、ハーミット・イーストへ向かった。道すがら一転して薄暗く人気の無い路地を通りながら彼女の顔を見やったとき、僕は彼女の唇が何かを求めているのを悟った。だがまだ早いよ。僕はそのサインを無視した。

ヨドバシカメラ東口店の裏を少し歩いて地下に潜るとお出ましするハーミット・イーストはウイスキーの品揃えが新宿随一のバーだと思う。ウイスキー呑みに愛されるハーミットの客層は中年男性が主となる印象だ。フレッシュフルーツのカクテルも置いているが、わざわざそれを飲みにハーミットへ来る人間はあまりいないだろう。その日もカウンターはウイスキーを嘗める男たちで占められており、対照的にうら若い彼女は浮いた存在であった。幸運にもカウンター中腹に2席だけ空きがあった。僕らは席につき、程よく明るい照明が、正面に並ぶ無数のボトルたちを煌びやかに映しすのに目を奪われた。

グレンファークラス105をストレートで、彼女にはグレンモーレンジ10年のロックを。マッカランをこよなく愛する彼女に挑戦的にハイランドの王道をぶつける。マッカランの他にもスパイスの効いたウイスキーがあるのだと伝えたかった。人生はそういったスパイスで彩られるのだと。僕はグレンファークラス105の強烈なパンチで脳髄を震わせ最後へのスパートをかける算段だった。モーレンジは彼女のお気に召さなかったようだったが、燻製の漬物いぶりがっこをあてに酒が進み会話も進んだ。

彼女は自らの過去について開示する。家族のこと、幼少期からの自分。彼女のライフヒストリーを垣間見て、彼女がなぜロマンティシズムに憧憬を抱くのか理解した。家族愛の欠如。これは僕の大いに共感する問題であった。僕も愛にまつわるネガティヴな過去を自己開示する。二人の心的距離が一層近づく。彼女がテーブルの下で僕の手に指を絡ませてきた。僕らは見つめ合う。

彼女の2杯目、グレンドロナック12年ロックが空くのを見て、僕はそろそろ行こうかと切り出した。うちにおいでよ、うちでもウイスキーを用意したんだ。ブレンデッドだけれどこのドロナックもベースになっててね、きっと気にいると思うよ。

彼女は僕の目を見つめたまま何も返さない。イエスともノーとも言わない。しかしこの時の僕にはもう分かる。徹底的に心を同調させたから、いま彼女の中になにが思われていて、いま僕は何をすべきであって、そしてこれから二人がどうなるのかが、手に取るように。

僕らはハーミットを出た。

階段を2段上がって、僕は振り返った。

彼女は立ち止まった。

僕は彼女の口に優しくキスをした。彼女の唇はそれに確かに応えた。

もう言葉はいらなかった。僕は無言で彼女に手を差し出し、彼女はその手を固く握り返し、50m先に停車していた黒のセダンへ二人で乗り込み、あとは僕が運転手に自宅近くのランドマークを口にするだけだった。

僕らを乗せてタクシーのドアが閉まった。


いつもの時間にいつものお酒を用意して

近ごろ僕の日常の数時間に新たな愉しみが加わった。

決まって僕らは夕方にこの言葉を交わす。いつもの時間にいつものお酒を用意して。22時30分がいつもの時間で、アサヒビールの500ml缶3本がいつものお酒だ。

現代のコミュニケーションは変わった。目紛しく流動する人々のうねりの中で、会話の雛形への理解とその実践、そしてその雛形への適切な応答が他者との繋がりのほとんど唯一の目的になってしまった。そこに現前するのは人間ではない。職業や収入、あるいは出自など、なんらかの概念で表象される観念でしかない。

僕らは敢えてそれに抗ってみることで合意した。そこで僕らはふたりのコミュニケーションにルールを設定した。僕らはそれをロマンスと呼ぶ。ロマンスを損ない得るあらゆる話題を相互自粛する。そのとき二人の中でお互いが真に人間として立ち現れるであろうという仮説に基づく実験。現代におけるロマンティシズムのレコンキスタ

僕らはまだ直接出会ったことがない。お互いの社会身分も何もかもを敢えて明らかにしていない。ただ言葉だけは交わした。あるいは、だからこそ、かもしれない。歯に衣着せない裸の言葉を。世間体や建前の名の下に社会から強制されることのない、真に自由な言葉を。

ある日、僕らは雪の話をした。

わたしは雪を見たことがない、と彼女はいう。

不思議だね、どういうこと、と僕は聞く。

東京に降る雪はすぐ茶色く汚れてしまうでしょ、わたしはあんなの雪と呼べないよ。

だったら俺がいつか本当に綺麗な白銀世界に連れて行ってあげるよ。

人生にまたひとつ愉しみが増えたね、と二人で確認する。

彼女は心から喜んだふうで言葉を続ける。

それにね、わたし心臓のドキドキしない雪を見てみたい、と彼女は切り出す。

それはどういうこと、と僕は聞く。

東京みたいに雪が降ると大混乱する街で生きてきて、大事な予定に間に合えるかとかいつも不安になるの。

平静な気持ちで雪を見つめたことがないんだね。

そうなの。

でも君と一緒だったら東京を離れて雪国に行ったところでずっと心臓がドキドキしているような予感しかしないよ、と僕はいう。

もしそれで倒れることがあったら一次救命処置はしっかりしてあげるから安心して、と彼女は冗談を飛ばす。

その場合、仮に意識があっても無理して息を止めておくことにするね、と僕はいう。

任せて、なんでも治してあげるよ、と彼女は笑っていう。

こんな愉しみの瞬間が連続して俺の人生という線になって、その果てに俺が棺桶に入れるなら、そのときの俺の表情はきっと笑顔なんだろうね、と僕。

楽しく死にたいね、と彼女。

くすぐったいね。

心地良いね。

そうだね。

ね。

じゃあ、今夜もいつもの時間にいつものお酒を用意して。


トーキョーにおけるコミュニケーション的耽美主義

僕は最近自分が求めているものが少し分かった。

芸術の域にまで高められた生のコミュニケーションへのコミット。道徳律へのコミット=社会公正の追求ではなく、あくまでコミュニケーションの持つ耽美性へのコミット=コミュニケーション的美の追求。そしてそこに自らを投企して得られる精神的高揚の追求。たとえばある種の小説は文章化されたコミュニケーションの芸術だが、僕は自らの美学のもと記号を飛び越えた現実世界でそれをやる。

うんうん唸った果てにやっとこさ考えがまとまったので、ここにこれを「コミュニケーション的耽美主義」と名付けて記録する。類似の言葉はあるだろうが、ここは敢えて僕の中の僕だけの言葉としてこれを保持する。

社会規範追従ゲームとしてのコミュニケーションは黙っていても既に僕の日常を埋め尽くしているし、僕の持つ全ての時間資本・経済資本・社会関係資本、その他あらゆる資本をここに投ずるのももう飽きた。僕が生きるときはコミュニケーションが生きるときだ。自分でも気付かなかったが、恐らくこうした無意識の感情に突き動かされるようにして始まった僕の恋愛工学プロジェクトの目標は、この段階に至っていま上のように言語化され規定された。よかったねおめでとうじぶん。これからは徹底的にPDCAを回して誰も見れない本当に面白いものを見てみたいと思う。

そしてこのフェーズに最終的に至らせてくれたのも、他ならない僕とのコミュニケーションに投企してくれた女の子たちだった。僕は上の話を敷衍したものに近いようなことを自己開示の一環として女の子に話しているなかで、帰納的にこの言葉を見つけた。現実におけるコミットメントが無ければ有り得ない話だった。

ところで女の子たちのこうした発想への反応はすこぶる良い。しっかりと丁寧に僕の考えを伝えれば、こちらが驚くほどもの凄い勢いで共鳴してくれたりする。リップサービスではない本音のトーンで、そんなこという人ははじめてだよ、と言われると、嬉しい反面に哀しくなる。なんで他にいねーんだ?でも彼女たちと話していると、ふと、トーキョーの狂気のなかでは誰もがこうした飢えを感じているものなのかなと思いいたる。ツマランもんね、すげーわかるよ。そして誰もそれを口に出さない。あたかも機械のように振る舞う。合理的に合理的に。打算的に打算的に。二日酔いみたいなモヤモヤを胃袋のあたりに感じながらも。

トーキョーという街だからこそ僕のゲマインシャフト的マインドは希少なのかもしれない。なのだとしたらこの希少性は翻って僕の強みとして働く。僕はあくまでこれを強く意識してコミュニケーションを構築していく。

またその対比でいえば、デフォルトでゲゼルシャフト的マインドを持つトーキョーの人々に、僕は恋愛工学のテクノロジーを以ってある種の冷酷さをあえて厭わないことにする。しかしそれは最終的に彼女たちをゲマインシャフト的マインドに引きずり込む、あるいはそれに対する飢えを自覚させ引き出すことを目的とした帰結主義的立場によるものだということを決して忘れない。僕は恋愛工学をマニュアル人間的に目的化させてやるつもりはない。

そもそも恋愛工学とハサミは使いようなのだろう。ネットの海原を回遊する恋愛工学プレイヤーたちは女性を物象化し、まるで手にしたハサミでむやみに女性の連続通り魔殺人をしているかのように僕の目に映る。恋愛工学が批判を浴びるのはまさにこうした一部の誤用ゆえだと思うし、その批判に共鳴して僕も彼らの姿勢に何らの憧憬を覚えることができない。それと対照的に、「高潔」で「誠実」なはずのAFCたちは、決してその倫理的高潔さゆえにハサミを使わないのではなく、単にハサミの持つ僅かな殺傷性を根拠にハサミの持つ潜在的な道具的価値を予め全面否定するという狭量かつ愚昧な判断をしているに過ぎないとしか思えない。ハサミを使ったことのない子供が臆断でただビビってるだけ。現に僕がそうだった。結局のところ前者後者どちらもハサミが「キレイに紙を切るための道具」だということを知らないバカなのだと思う。しかもなんでこんな単純な問題構造が理解されずに未だ議論の俎上に載せられているのか本当に分からない。僕はハサミを使って自分の好きな形に紙を切ろうと思う。

以上踏まえた上で、明日はKとのアポ、週末はHとのアポ。以下ではKに向けてのPDCA


〈前回まで〉C
・今回アポは先方が契機、そこそこIOIアリ
ラポールはOKくさいがDHV(A)不足否めず

〈今回目標〉C→S
ラポール再形成
・観察の徹底的練習(今回は表情、目、口、手を中心に、反省日記でこれらの記述が豊かにできることを目標に)
・前回不足したDHV徹底して経済負担率抑えても笑顔に(ひとつのベンチマークに)
・状況に応じてパーソナリティワクチン10本注射
・HCからの2軒目
・酒で酔わせず言葉で酔わせる(だからアルコールひかえめ)
・2軒目からのお宅訪問打診とグダ崩し(or戦略的グダ種潰し)
・お宅訪問からのS突入、ST(真心こめて)
・以上、一番苦手なC→Sの成功例を経験

特にSフェーズ初回。100回イメトレして100回の成功体験が既にあるくらいのマインドで臨んでお互いの良い時間作ったる。

トーキョーガールの狂気的マウンティング

「えー慶應いってたんだー。私の元彼も慶應だったのー。法法だよー!」
「この前理3出身の製薬会社の人と飲んでてー、なんか話噛み合わなくてー(笑)」
「外銀の人ってきらーい。いいお店つれてけばそれだけでヤレるとか思ってるモラルがうんたらかんたら」
「なんかこの前miumiuのバッグ買ってもらってー、そしたらなんちゃらー、」

へえー、すごいね!本当に(きみと違って慶應に進み司法試験に挑む彼が、きみと違って現代薬学に貢献している理3の彼が、きみと違ってとてつもない経済力を手に入れた外銀の人が、きみと違って素敵な料理を提供してくれるいいお店が、20万のバッグをきみに気軽に買い与えられる彼と市場でそんな付加価値をもつバッグとブランドとそれを生み出したデザイナーの人々が)すごいね!

あれ、ちょっとまって。そう考えてみたらきみって誰?きみの主体どこ?自分からマンコ取ったら何も残らないって自己紹介じゃないのそれ?もしかしてマンコがきみの存在そのものなの?マンコがレーゾンデートルなの?村上春樹の小説かよ大丈夫?

それでジェンダーとかいってるの?自分から選択的に自分の主体を焼却してジェンダー語るの?なにそれ新しいギャグ?

そういうのは今度からこういう小洒落たレストランじゃなくてエンタの神様のステージでやってもらっていいかな?いやー絶対受けるよー、うんいやほんとほんとー。

いやでもしょうがないよね、僕らの住むこのトーキョーってそういうゲゼルシャフトだしね。誰も僕らのライフヒストリーを24-7で追体験なんてしてくれないし、咄嗟の自己開示ではそういう感じでしか自己表現できないよね。気も狂うよね。わかるわかる。

でも僕はきみがどんな人間だったって生身で受け入れるよ。きみが仮に親殺しの犯罪者だとしたって、きみが仮に肥溜めのクソより無益な人間だったとしたって、僕はきみの存在とそのまま向き合ってみせるよ。本当だよ。

だからここの会計きみにまかせてもいい?あとついでにあとで一発やらせてもらえるかな?


ACSベース戦略再検討

以下、実際にアポPDまで進展した①Rと②Kを踏まえて各フェーズごとの分析と具体的行動戦略を策定する。毎回のアポ後に修正していく。

1) Attraction① Tinderマッチ後〜LINE移行フェーズ
これが恐らく一番上手くいってる。特にプロフィールの文章弄ってからマッチ率が爆上がりし、中にはS級案件も紛れてくるようになったが、どうやらオープナーが正しく機能しない場合があって勿体無い。これは恐らくターゲットの属性に依拠するものなので以下のように状況次第で複数切り替えられる体制を作る。

a)22〜24歳OL
どうやら結婚オープナーが効果てきめんの印象なのでこの手法をキープするが、その後の趣味嗜好調査フェーズでの会話展開でこれまで全部グダってこのオープナーの持ち味がぶっ壊れてる。冗長になるくらいならいっそ即LINE移行&すぐ通話に切り替えてヒアリング→アポ取りの方が腐らなくて良いかもしれない。あと何度もやってるとコピペ臭さが出るので状況依存的にいちいち同内容を打ち直すくらいのことはした方がいいかもしれない。
ただしOLに結婚ルーティンをやるとその後のアポの経済コストがぐんと上がるので(③H)ターゲットは絞る。

b)18〜21歳JD
結婚オープナーに食らいつかないか、食らいついてもすぐスルーされるので別なオープナーを2〜3個開発する必要あり。しかもターゲットの大学のレベルと学年、海外経験値に応じて自由に切り替えできるとレスポンス率・LINE移行率がもっと高まるはず。学生の場合深夜帯にマッチした場合だけ「めんどくさい挨拶すっ飛ばして通話しようよ」オープナーが使えるが時間浪費が激しいので対象は限定。スト値低い子で練習してIOIの強度次第でスト高に応用。

2)Attraction② 対面対決フェーズ
そもそもがロクな経済資本も社会資本もないハンデ戦なので文化資本でのDHVが唯一のコアコンピタンスであることを明確に意識する。特に①Rには形而上学DHVが恐ろしく炸裂したし将来的なことを考えてもこの方面でのDHVの有意性をもっと検証する必要がある。次回アポで③Hと②Kに提示してリアクション探る。ていうか(特にスト高)OLに経済・社会戦じゃ100パーセント勝てないので徹底的に磨き上げてこっちの土俵に引きずり込む他ない。ついでに形而上学DHVは必然的に相手へのIOI発信として機能してしまうので他でネグを打つべきかも?それとこの戦略は①Rで効いたが自分が話してばかりになるので相手の情報開示の機会を奪うことになる。同調効果を低減させるのでレシオだけ配慮。
またこれは一定程度の属性的前提があるので④Mや⑤CのようなちょっとアホめのJDケースは別のDHVを用意しなきゃいけない。あと期待ハードルと空間設定の経済コストが上がるのでここぞという時に限定する。従って第二のゆるめのルーティン開発が必要。
それと髪を短くしたのはまずかった。ファッションの幅が狭まった。ターゲットに応じて前髪下ろすのと分けるのの2Wayが切り替えられるようにだけしとく。たぶん④Mみたいなタイプには長い方がいい。だからしばらく伸ばすし次回は後ろもツーブロでいこう。

3)Comforming
a)会話面
聞き上手にはなってきたがもっと深いラポール形成のためには単に同調してるだけじゃ弱いということを②Kで学んだ。上記DHVからのネガティヴ自己開示まで展開させるべき。
ただ、無関心的であることと同調的であることは相反する態度だから難しい。だから初期段階ではセオリー外してある程度DHV(=自分の発話)の割合高めて相手のIOIを獲得する方が自分には合ってるかもしれない。これなら相手のスト値に依拠しない。その上でこっちが受けに回ってIOI発信する方針でいく。流されがちだがスト高相手にある程度無機質に話すこともできるようになる。

b)空間面
いい店使う戦略はComforting面での期待効果とそもそものアポのコンバージョン率が高いけどコスト的辛さがあるしフレンドゾーン化・メシ乞食化のリスクがある。それは結果的にスタティスティカル・アービトラージ戦略でいう試行回数の低減を導く。それと空間に甘んじた自分のDHV磨きの質的低下を招く。
ゆえに店に依存しない体制を作る。JD相手ならカフェやムーンウォーク、Sフェーズでイーグル使う程度でいい。OLはそもそも俺に経済的期待をさせない方向で自己開示して、とりあえず会計比率7:3〜6:4くらいにまで落とし込む。なお②Kのケースは自分の経済負担率72%だったので丁度いい。次回はもっと落とす気合いでDHV。

...と総合すると、空間的演出でC高めてコミュニケーションでは基本Aに軸足を置く戦略が将来性ありそうか?③H以外のスト値6以上JDで心を鬼にして①Rにやったのと同じこと試そう。

4)Seduction
一番苦手なフェーズだが、周りがスト値8未満のいまトレーニングするしかない。とりあえず②KはLTRを壊さない範囲でSフェーズまで持ち込んで練習しよう。今回はトレーニングということでSフェーズのコスト負担は度外視する。そしてアポ4回以上はFZ搾取候補だと覚悟する。特に③Hの発展に②Kを生かす。

という1)〜4)のうえで、2016年上半期は、
・週間5件ずつ現実性ある候補増やして月間アポ2-3回をキープしていく
・他の生活費を加味してもそれを賄える程度の収入を時給主義で獲得したいがどうすりゃいいんだ(実際、アポで1日使った仮定における機会消失は3万円程度にもなるのでアポまでの試行回数は極大化させてもアポ発展とその後の精度でよほど慎重になること必須)

というわけで現状個別案件としては、
①R(SU) アポドタする、さよならグッバイ
②K(O) 次回C→S 半月くらい放置して向こうからアポ待ち、ただし非コミ注意
③H(O) 29日アポ、Cでラポール形成徹底、第二アポ繋ぎ
④M(U) 2月アポ取り、ただ地雷臭
⑤C(MU) たぶんA成功してるけど癖あり
⑥M(IU) レピュテーションリスクをヘッジできるオープニング案浮かぶまで保留
⑦R(JU) グッバイ
⑧P(?) スト値9高スペ ②-③での成長次第
⑨E(F) スト値9 DHV効く可能性低 ②-③次第だが⑧Pよりは優先?
⑩Y(O) どうしようもないとき